09/6/15 『The Wrestler 』@神戸

8時半起床、朝刊はない。
寝坊が常態化してきたなあ。
今日は寝坊を理由にジョギングをサボる。
朝食の献立は、ご飯、豚汁、いわしの蒲焼き、野菜のホイル蒸し、白菜の煮びたし


土曜日に見たU20ラグビー世界選手権フランスvs南アフリカの録画中継を見る。
聞き逃したラ・マルセイエーズを聞く。
選手の歌う調子っぱずれの革命歌に唖然となる。
最近はナショナルアンセムの際、ステディカムのドリー撮影が流行っている。
でも、音声までとりきる必要はないと思う。
音痴の選手もご愛敬だけどせっかくの雰囲気が消えてしまう。
花園だからスタンドの大合唱はないのだろうけど…。


…午後からGIANTにまたがり神戸へ走る。
43号線から鳴尾御影線、さらに2号線と横糸を西へたどる。
三宮まで50分かかってしまう。
見慣れた市街地に入ってから速度が極端に落ちる。
車も人も多く、信号も多い。
蒸し暑い。


居留地にある神戸朝日会館前に到着。
重厚なギリシャ風の支柱がアーチ型に並ぶ戦前の名建築。
自転車置き場にGIANTを停めてシネリーブル神戸に急ぐ。
15日はシネリーブルの日で1000円。
喉が渇いたので珍しくコーラを注文するとポップコーンが出てくる。
え、頼んでないよ、と言うと、サービスです、とのこと。
エエ歳のおっちゃんがポップコーンのバレルとコーラを手に入場。
100席ほどのスクリーンはいつもより混んでいて6割ほどの入り。
左翼席に陣取りコーラを飲むと汗がひく。
塩味のポップコーンが妙に旨い。


ミッキー・ローク主演『ザ・レスラー』(ダーレン・アロノフスキー監督)を観る。
場末のホール、汗臭い控え室から物語が始まる。


安酒が飲みたくなる。


老いぼれレスラーが疲れ果て、トレーラーハウスに帰る。
部屋のドアがロックされていて入ることが出来ない。
車の中で眠るしかない。
薄暗いルームライト、老レスラーが缶ビールのプルトップを開ける。


なまぬるいビールが飲みたくなる。


安くて、強くて、おまけに不味い酒が飲みたくなる映画だった。
深夜、長い編集仕事を終えて飲むコンビニの発泡酒とポテトチップス。
あるいは、夜更けに目覚めてすする常温のバーボンウイスキー。
長い旅の途中、ようやく見つけたホテルのベッドで飲む冷えてない缶ビール。
そんな時と同じように最低の気分になる映画。
でも、不味い酒を妙に懐かしく思い出すときがある。
あの時飲んだビールは…まんざら悪くなかったんじゃないか、と。

http://www.youtube.com/watch?v=Takm6ydsMA8


僕にとっては、感動に打ち震える、「泣ける」という映画ではなかった。
それはあまりにうすっぺらな賛辞に思える。
安い、不味いと書いた。
思いっきりB級だが、裏腹に安っぽい映画ではないと思った。
この映画を好きだと思った。
嘘みたいなことで現実をごまかしていないから。
映画が終わっても鐘は鳴り続ける。
村上春樹がどこかで引用していた記憶がある。
アービング・バーリンの歌にそんな歌詞があった。
「歌は終わった。けれどメロディーは鳴り響く。」
(The song is ended but the melody lingers on.)
この映画のラストシーンで言うなら。
『人生は終わった。けれどランディ・"ザ・ラム"・ロビンソンは永遠だ。』


筆が、いやキーが滑ってますか?
よかったです。
イマイチだという人もいるでしょうけど。
『ロッキー』が好きでした。
でも、今の年齢になってはロッキーより好きかもしれない。 
  
   


主人公はミッキー・ロークの人生そのもの。
あの二枚目がボクシングでつぶされ整形を繰り返したあげく怪物のような顔になってしまった。
現実と映画の境が見えない。


町山智宏がブログにインタビューの訳を載せている。


 「91年から94年までボクシングをやって、94年に映画界に復帰しようとした時、
  どこにも仕事はなかった。オレは破産して家を失った。女房も逃げていった。
  俳優としての信用も失った。ちやほやしていた取り巻き連中も消えていった。
  オレは魂を失った。オレはひとりぼっちになった……。
  今はなんとか慣れたが、最初は大変だった。
  夕飯を買いにスーパーに行って買い物カートを押した。
  誰にも見られたくないから、ゲイタウンにある24時間営業の店に真夜中に行ったんだ。
  オレは金がなかった。日々の稼ぎは週三回のカウンセリングの金に消えていった」


ミッキー・ローク以外には考えられないハマリ役だ。
しかし、最初のキャスティングではニコラス・ケイジがやるはずだった。
監督のアロノフスキーはミッキー・ロークを推したが却下された。
予算を大幅に削られても監督は闘ったのだそうだ。


感動的なインタビュー記事だ。
http://e-days.cc/cinema/feature/200906/27452.php


 「…幸いなことに、オレを認めて味方してくれる監督がいて、
  オレのためにとことん闘ってくれた。
  金儲けに"ノー"と言ってくれたために、かつかつの予算を余儀なくされてね。
  オレの4倍は金の集まる俳優よりオレを信じ、その俳優に代えてオレを起用してくれた。
  そんな監督のためだったから、オレが久しくしてなかったことをしたのさ。
  オレの全てを賭けること。
  学生の頃、なぜ、自分の能力の許しうる最高の役者になりたかったのかを思い出した。
  すごくいい気分だったからさ、とことん全力を尽くすっていうのは。」


    

   

…とにかく、ミッキー・ロークのプロレスラーぶりは凄いよ。
見るだけで涙が出てくるくらい哀しいんだ。
さりげなく目につく補聴器がまた哀しい。
それに彼が恋をする子持ちのストリッパー役のマリサ・トメイがいいんだな。
40過ぎの年増なんだけど色っぽくて、また幸薄いそうな笑顔がたまらない。
彼女のラップダンス(何なのかは映画を見てのお楽しみ)が20ドル。
お願いしようかと思う。


デートに誘う。
「ビール1本、いいだろ?」
しつこく、Just One Beer ばかりを繰り返す。
「な、ビール1本」


ビールを飲みながらの会話がいい。
80’s good forever と彼が言い、80’s good foreverと彼女が言う。
落ちぶれた二人にとって80年代が最高だった。
マジソンスクエアガーデンでスターだった時代。
昔は良かったね。
でも、90's Rags(90年代はクズ)と彼女が言えば、90's Ragsと彼が言う。
90年代は二人の人生で最低の時代だったのだ。


ラスト近くで彼女が言う、I'm really here(ここにいるわ)が哀しい。


もうひとつ印象に残ったシーンはプロレスラーたちのサイン会のシーン。
たまらなく哀しい。
よくもこれだけ哀しき道化としてレスラーを描けたものだと思う。
監督はプロレスラーが好きなのだと思うし、見ている者も好きにならずにいられない。

    



…ラストシーン。
画面が暗転してブルース・スプリングスティーンが歌い出す。
ギター一本のシンプルな歌に心撃たれる。
ブルースは映画を見ずに無償でこの曲を書いたと言う。


 ♪ 原っぱを駆けるワン・トリック・ポニーをみたことがあるかい?
  もし見たのなら、そいつが俺さ
  通りを歩く片足の犬をみたことがあるかい?
  もし見たのなら、そいつが俺さ


  Have you ever seen a one trick pony in the field so happy and free?
  If you've ever seen a one trick pony then you've seen me
  Have you ever seen a one-legged dog making its way down the street?
  If you've ever seen a one-legged dog then you've seen me


one trick ponyという言葉に聞き覚えがあった。
ポール・サイモンにそんなタイトルのアルバムがあった。
意味を調べると、俗語で「ひとつの芸しかできない子馬=生き方の不器用な奴」
この歌の場合、もちろんプロレス野郎を指す。


ビデオクリップを見た。
ブルース・スプリングスティーンの面構えがいい。
http://www.youtube.com/watch?v=uK6smwWg8bc&feature



ついでに『グラン・トリノ』の主題歌のビデオクリップ。
これも染みる歌だった。
http://www.youtube.com/watch?v=NoLc43YuuTw




…映画を見終わってまた自転車で西宮まで帰る。
途中、阪神御影の立ち飲み『ライオン堂』で飲む。
ワンコインセット、500円で生ビールと串カツ2本。
客のほとんどがワン・トリック・ポニー、いやワンコインセットだ。
ミネーロにメールを打つ。
「ザ・レスラーを見ろ!絶対に見ろ!あれはお前だ。映画を見ながらお前は声をあげて泣く」と。
映画の余韻を楽しみながら美味しいビールを飲む。
ほろ酔いで芦屋浜まで戻り、ティン・ウィッスルを吹く。