「100キロだって走れる」
日記のタイトルは勇ましいがそんな話ではない。
今日も重い朝だ。
疲労が身体にこびりついたまま落ちない。
目覚めたとたんに走り出せるくらい元気な朝がかつてはあったなあ、と思い出す。
どんなに深酒しても不思議と二日酔いせずに清々しい朝を迎えることもあった。
若さゆえ、命の力がみなぎっていたのだ。
村上春樹の処女作に記憶に残る描写がある。
帰省した主人公の僕は友人の鼠のフィアットで公園に突っ込む。
奇跡的に無傷だった二人は朝までビールを飲み続けたのだ。
僕たちはビールの空缶を全部海に向かって放り投げてしまうと、
堤防にもたれ頭の上からダッフルコートをかぶって1時間ばかり眠った。
目が覚めた時、一種異様なばかりの生命力が僕の体中にみなぎっていた。
不思議な気分だった。
「100キロだって走れる」と僕は鼠に言った。
「俺もさ」と鼠は言った。
(村上春樹『風の歌を聴け』より)
睡眠時間が足りてるはずはないのに体の細胞が短時間に再生する。
そんな魔法のような瞬間がかつてあった。
100キロだって走れる、俺もさ。
悲しいかな、そんな朝は二度と来ない。
しかし実際に僕たちがしなければならなかったのは、
公園の補修費を金利つきの3年割賦で市役所に払いこむことだった。
52歳の今、僕は自分の体の補修費さえ払えないで代償にあえいでいる。
やれやれ。
…今日は真夏日となる。
でも、湿度がないので助かる。
朝から新番組の打ち合わせ、ニュースデスク、会議と続く。
横山秀夫の文庫新刊『看守眼』を読む。
警察小説は妙に酒を呼ぶ。
3枚の写真。
北信州の奥山田温泉のにごり湯。
温泉宿に住むねこが気持ちよさそうにひなたぼっこ、彼の名前は『タロー』。
宿に泊まった翌朝は快晴だった。
そういえば身体も重くなかったなあ。
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昨日の日記、『羆撃ち』の感想つきで更新しました。