走らずに自転車で近所をぐるりと回る。
図書館で本を借りてきた。
文楽関係のガイド本2冊、エッセイ1冊、住大夫さんの伝記、時代小説。
京都の三条駅前に高山彦九郎が御所にひれ伏している石像がある。
高山彦九郎とは何者か?
吉村昭の『彦九郎山河』が答えてくれるだろう。
(でも、読むかな?)
文楽研修生の発表会へ行く。
入場無料。
演目は、二人三番叟、菅原伝授手習鑑、一谷ふたば軍記。
客席には着物姿のおばさま連中、老夫婦、うるさ型の文楽マニアっぽい人(たぶん評論家も)、
三浦しをんみたいな単独の女性、加えて桐竹勘十郎さんら文楽の先輩達も勢揃いしているようだ。
パンフ(床本)も無料配布と太っ腹。
研修生は二人、大夫と人形遣い。
大夫は大浦渉(わたる)君、人形遣いは大東悠二(おおとう)君という。
二人いた三味線の研修生は途中辞退とある。
続かなかったのかな…。
三味線さんにとっては淋しいだろうな。
三番叟では大浦君は大夫の先輩たちと並んで出演、研修生は一人だけ裃(かみしも)なしで末席に座る。
人形の足を担当する大東君は普段は黒い頭巾をかぶるはずだが研修発表ということで素顔を見せる。
『菅原伝授手習鑑』は東天紅の段。
これを大浦君が素浄瑠璃で語る。
人形は無し、大夫と三味線が舞台の中央に座る。
大丈夫だろうか、と心配しながら見る。(なんで僕が心配するのだ?)
「ばかりなり」
節をつけてたっぷりとゆっくりと朗々と時間をかけて語り出す。
よく声が出ている。
野球部だったらベンチからでも外野に届く。
口跡もはっきりと声質もよく響く。
やるじゃんか大浦君、あくまで素人が聞いての印象ですが…いいんじゃないの。
「土師兵衛は一間より、そっと抜け出て前栽の、
勝手覚えし切戸口錠ねじ切って推し開けば、
外から合図の鋏箱、差し出す中間徒士若党」
菅丞相を密殺するために忍び込む父子の動きを描写する。
情緒があるかどうかはわからないが、いっぱしの浄瑠璃と聞こえる。
2年の研修期間でここまで語れるのか。
もしかして大浦君って天才? それとも誰か名人のご子息か?
語るほどに熱が入ってくる。
浄瑠璃を聞いた人なら知ってるだろうが腹から声を出してしだいに顔が紅潮してくる。
物語が佳境に入り大浦君の語りも熱を帯びてくる。
小説『仏果を得ず』のクライマックスを思い出す。
文楽青春ストーリー。
坊主頭の大浦君が高校球児とダブる。
マウンドで汗をほとばしらせ力投する投手。
悪だくみを聞かれてしまった父子は妻の立田前を殺してしまう
「そりやこそ鳴いたは東天紅」
「アリヤまた歌ふは東天紅」
登場人物の台詞の使い分けが極端な気もするがそんなことはどうだっていい。
僕はちょっと感動していた。
目頭が熱くなった。
満場の拍手で幕が下りる。
幕の向こうで大浦君はガッツポーズ、してないだろうな。
肩で息をしながら何を思う。
これで研修を終了した彼はいずれかの師匠に弟子入りすることが決まってるのだろう。
○○大夫という名前がもらえて技芸員として再び舞台に立つのはいつなのだろう。
厳しい修行はこれからだ。
がんばれ!
おっちゃんも頑張る。
続く『一谷ふたば軍記』に人形遣いの大東君が登場。
熊谷次郎直実の足遣いを担当する。
この演目も足遣いながら顔出し。
うーむ、見たところ無難にこなしているように思える。
全くのど素人なので、よくわかりません、というのが正直な感想。
ミナミまで来たのだから予約購入しておいた2月の大歌舞伎のチケットを引き取りに松竹座へ寄る。
おや、新春歌舞伎まだやってますねえ。
幕見あります、との貼り紙がある。
ちょうど幕間の休憩時間、あと15分ほどで夜の部2つめの演目が始まる。
演目は『廓文章』、1200円也。
案内が来るまでフロントで待つように言われる。
幕見客は他に30代の女性が一人。
二人で5分ほど所在なげに待つ。
受験に遅刻した学生のような気分。
やがてスタッフの女性がやってきて案内される。
エレベーターに乗り込む。
3人無言。
お金払ったのにどこか後ろめたい。
人目を忍んでこそこそと席に着く。
幕見は通のような気分もするが、どこか秘密めいている。
山城屋! 松嶋屋! 成駒屋!
3階席、実はメガネを忘れてよく見えなかったです。