2011/7/9 文楽素浄瑠璃の会@国立文楽劇場

熱帯夜でただでさえ寝不足、仕事中も居眠りがちの夏。
無謀にも素浄瑠璃の会へ出かけました。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
夏らしく晴れて南風が吹く清々しい朝。
関東甲信越、北陸までが梅雨明けとなった。
ヒロは朝早くからアシックスのお得意様向けセールへ出かけていく。
バラカン先生のウイークエンド・サンシャインを聞く。
Ry Cooder の『 Goodnight Irene (グッドナイト・アイリーン)』が流れる。
You-Tubeですぐこんな映像が見られるのが2011年の数少ない美点だ。

このステージ、どいつもこいつも犯罪者みたいな奴ばっかですね。
(特に1分過ぎに登場するコーラス隊)
若き日のライ・クーダーもどこか疲れたスタローンのようです。



文楽浄瑠璃の会@国立文楽劇場
文楽からまだ1年経っていないというのに素浄瑠璃を聞きに行く人間になった。
文楽の知識も薄っぺらで、鑑賞眼もいまだ育たず、居眠りも何度かしでかした。
それでもなお、打たれてもなお、立ち向かう魅力が何なのか、自分でもわからない。
浄瑠璃の会、今回は人形レス。
ビギナーには無謀とも思える3時間半の浄瑠璃ショー。
大丈夫か?
不安を隠せないまま国立文楽劇場へ向かった。


NHKの中継カメラが入っている。
報道受付がある。
運動記者クラブの記者証でも入れるのだろうか。(無理に決まってるだろ)
プログラム(床本つき)を350円で購入。
会話に関西弁以外の音が目立つ。
全国的に注目されているのか。
にわかに緊張が走る。


ほぼ満席、僕は4列17番。
ほぼ真正面、座席表で確認してもらえばわかる。
http://sakiho.com/Japanese/bunraku/seat/kbunraku.html
大夫と三味線の真ん前、死んでもイビキはNGだ。
ドキドキしてきた。


1.平家女護島 朱雀御所の段 / 豊竹咲大夫 鶴澤燕三
舞台正面に顔見知り(一方的に)のお二人が現れる。
三浦しをんのガイド本でもおなじみのコンビなのだ。
張り詰めた空気。
テンと燕三の太棹が入る。


  囲女とや悪口に、これをも言へば夕づく日、朱雀の御所は女護の島…。


咲大夫がおもむろにゆったりと語り始める。
京の街、毎夜のように若い男が行方不明になる事件が続発する。
噂では夫 義朝を殺された常盤御前(ときわごぜん)が夜な夜な男を館に呼び入れている、と。
近松門左衛門、しをん風に言うとモンモンの作。
怪奇映画になりそうな設定です。
咲大夫、燕三、ともに大熱演。
咲さんの額から、たらり、と一筋の汗が流れ落ちていくのをしかと見た。
思えば大夫は汗をかいても頃合いを見て手ぬぐいが使えるが、
両手を使う三味線は汗が拭けない。流れるにまかせるしかないのだ。
人形がない分、聞いている者が映像をイメージしやすい。
なるほど素浄瑠璃とはこういうものかと思う。
以前、研修生の発表会で一度だけ聞いたが当然のことながら技量が違う。


でも、白状するとちょっとだけ居眠っちまいました。
床本20行分くらいですが。
でも、これで素浄瑠璃の耳が出来上がってきたような感覚あり。


ちなみに燕三さんはクラシックな自転車マニア。
ルネエリス(フランス製)を保有されているという。
美しい自転車で、僕は写真でしか見たことがない。


2.義士銘々伝 赤垣源蔵出立の段 / 竹本住大夫 野澤錦糸
幕が上がった瞬間、理事長の顔がいつもと違うように思った。
生気がないように…。
目がテン、みたいな感じ。
無理せんといてくださいね。
錦糸の三味線が入る。
語り始めるまでの理事長、なんだか落ち着かない様子。
大丈夫かな、と本気で心配になる。


 降り埋む雪の野山と人心…


しずかに、86歳の人間国宝が語り始める。
いつもより音量は抑えた感じ。
が、枕(情景描写)を語り終え主人公 赤垣源蔵の詞(台詞)で一変した。
源蔵は酒を呑んでいる。


 「ああ、降るは降るは、降る雪の面白しとは、一ツ気に酒より後の心なりけり。
  ……この降る雪の面白み、下戸は何と、見るであろう。
  こいつは酒呑みでなきゃ分かるまい ハハハハハハハハハハ」


出たぁ!
住大夫、名人芸の大笑い。
この人、酔ってたのか。
心配していたのは僕だけだったのだろうか。
観客も大笑い。
源蔵がろれつも回らずしゃべるたびに笑いの渦が巻き起こる。
底にある覚悟をひた隠すように源蔵は道化を演じる。
台詞の多い演目だ。
次から次へと登場する人物を住大夫は見事に語り分ける。


いつのまにか僕も大笑いしながら物語に引き込まれていく。
導入の声が低かったのも演出だったのか。
ご自分では悪声というけれど聞きやすい。
言葉の一音一音が聞き取りやすい。
そして、じわじわと心拍数が上がっていく感覚。


締めの地合の語り、ぞくぞくっと来る。


 手槍ひっさげ源蔵は、忠義の道を一筋に、雪を蹴り立て、蹴り立て、駈けり行く


真夏なのに寒気がした。
満場の拍手、観客の感動を僕も十二分に共有した。
心配無用、住大夫は別格だった。


3.壺坂観音霊験記 沢市内より山の段 / 竹本津駒大夫 鶴澤治
住大夫&錦糸で満足したので、もういいかな、という感じだった。
この壺坂霊験記、1時間半近いのだ。
結論、聞いて良かった。
この『壺坂霊験記』っていい話なんですね。
浄瑠璃の演目にしては珍しくハッピーエンド。
盲目の夫とそれを思う妻が不憫でたまらない。
隣のおばちゃんは声をあげてすすり泣いてました。


津駒大夫、僕が初めて文楽を見た去年8月の夏休みレイトショー。
『菅原伝授手習鑑』の寺子屋の段、切り場を熱演した大夫さんです。
「アノにつこりと笑ひましたか笑ひましたかハハハハハハ」
僕はその時に、自民党土建屋族のような、と書いた。
今日はそんなふてぶてしいイメージは全く無かった。
人の印象とは不思議なものだ。


壺坂の津駒さん、感動しました。
大熱演、全身全霊で演じるとはまさにこのこと。
顔面汗びっしょり、鼻水が垂れ、顎からつららのように垂れ下がる。
ええい、構うものか!
白い鼻水つららをたらしたまま、幕が下りるまで語り続けた。


国宝 鶴澤寛;治!
一心不乱、倒れそうになる大夫を支え、ときに鼓舞する。
住大夫の言うように、暗い夜道を懐中電灯を手に道案内するが如し。
これぞ不動の三味線。


語り終え、この日一番の拍手。
浄瑠璃の会、また行こうと決意する。


キンチョウスタジアムでは総理大臣杯大学サッカー決勝があった。
中央大学(関東4位)vs大阪体育大学(関西2位)、キックオフは14時。
真夏に14時は過酷ですよね。
甥っ子の1年先輩の山本大稀クンが大阪体育大学の主力MFとして出場した。
行きたかったけど素浄瑠璃のチケット買ってたからなあ、残念。
生放送はないのだから夜にして欲しかった。
中継を担当したA藤プロデューサーに結果を問う。
「勝ちましたよ、1-0で逃げ切りっす。山本活躍してました」とのこと。
文楽終わりの日本橋で一人ガッツポーズ。
米子北では準優勝どまり、彼にとって初めての全国制覇だ。
まったくの他人なのに嬉しい。
タカくんも精進して続くのだ。


…素浄瑠璃の会をハネて千日前で一人瓶ビールを飲む。
以前、K輪住職に教えてもらった『ときすし』という屋台風の鮨屋。
一本だけ飲んで小ぶりの鮨を十貫ほどつまみ帰宅。
暑いけど気持ちのいい夏の夕暮れ。