2011/12/27 独り神戸

今日も底冷えする朝、自転車で灯油を買いに行く。
でも、今日は走りました。
走ったあとにストレッチ(含む筋トレ)もやってみた。
筋肉痛はちょっと残っているが問題はない。
続けられることが何よりも肝心、運動メニューはシンプルにしておきたい。



…昼から阪神電車で三宮へ出る。
珍しくコーディロイのジャケットを着て黒の革靴を履いていく。
X'masでもらったカシミアのマフラーをしたい気分だったのだ。


今日は一人で映画を観た。
川島雄三監督の『幕末太陽傳 -デジタル修復版-』@リーブル神戸。
言わずと知れた日本映画の名作、ずっと観たかった映画だ。
20代の頃に一度、レンタルビデオで見ようとしたが最後まで見ずに返してしまった。
画質はかなり悪かったという記憶だけがある。
デジタルリマスター版が劇場でかかるとチラシで知り小躍りした。
で、見終わって思った。
この映画、大当たりだった。
天下の名作にこんな無礼な物言いはないだろうけど。
でも、若い頃に見たらどうだったろう? とちょっと疑問に思う。
今の年齢になり、時代小説や落語や歌舞伎や文楽や浪曲もかじって、
初めてわかる粋なカッコ良さがこの映画にはあると思う。
もちろん型破りの時代劇、ニューシネマとして語られる文脈もあるのは知っている。
が、少なくとも20代の自分には感じ取ることが出来なかっただろう。

     


リマスター版のポスターはカラーだけど映画はモノクロです。
修復されたこのモノクロ映像がきれいなこと。
日活創立100周年!
日活と言えば裕次郎、アキラ、小百合、時代物を撮っていたというイメージが僕にはない。
http://www.youtube.com/watch?v=0BF3OW32zOk



舞台は幕末、文久2年の品川遊郭。
冒頭に、これが現在の品川である、とナレーションが入る。
この映画が撮影された昭和32年の品川の街並が映る。
昭和32年(1957)は僕の生まれた年である。
江戸時代、東海道の宿場町だった品川は北の吉原と並ぶ花街だった。
昭和32年はそれまで残っていた赤線が廃止された年でもあった。


生まれたばかりの僕が言うのは変だがこの映像は妙に懐かしい。
幼い頃に撮ってもらった写真が僕には大量にあって、その写真の背景に同じような街並が写っている。


映画はこの品川から95年を遡った幕末、文久2年。
とにかく、居残り左平次 フランキー堺が最高!
予告編にもあるが、勤王の志士 高杉晋作に放つ台詞が奮っている。


  「どうせ旦那がた、百姓、町人からしぼりあげた金で、
        やれ攘夷の勤王のと騒ぎ立ててりゃそれで済むだろうが、
                   こちとら町人はそうはいかねえんだい!
   てめえ一人の才覚で世渡りするからにゃ、へへ、首が飛んでも動いてみせましゃあ 」


いやあ、映画の活きがいいやね。
ピッチピチしてらあ。
写真が動いて活動写真っていうが、この写真は活きが違わあ。
テンポが速いね。
うかうかしてると映画に先行かれちまうよ。
いい子チャンの優等生なんて一人も出てこねえ。
エエかっこして生きちゃいけねえ時代だ。
本性丸出し。
だから楽しい。
それにしても白黒の映像がきれいなこと。
デジタル修復の技術ってのはてーしたもんだね。
今の世の中、泣ける映画ってのがもてはやされてるようだけどな、
べらんめえ、いくら泣いてもおまんまは喰えねえや。
こちとら、それこそ首が飛んでも、生きるんでえ!


俳優陣がいい。
フランキー堺、石原裕次郎、金子信男、山岡久乃、西村晃、二谷英明、
菅井きん、熊倉和雄、小沢昭一、殿山泰司と看板スターに名脇役勢揃い。
女優もいい。
伝説の大乱闘を演じる女郎役の二人が抜群にチャーミング。
南田洋子23歳! 左幸子26歳!
飯炊き女役の芦川いづみも今のオノマチを彷彿させて儚げでいい。
でも、この映画では女のしたたかさも見せます。


最初は誰だか気がつかなかったがこの二人も出演している。
左が小林旭、長州藩の若侍役、右が岡田真澄、廓の手代。
ともに20歳そこそこの若手でした。
岡田真澄が廓の仲間に言われる。
「おめえ、そんな面だ。攘夷の連中に見つかったらやっかいだぜ」と。


…映画を見終わるとちょうどいい頃合いに日が傾いている。
4時半、久しぶりに八島食堂の大きな暖簾をくぐる。
すでに先客が数人、白木のカウンターに座る。
「おお、一本つけてくんな」
映画の余韻、居残り左平次の気分で熱燗を飲む。


2本飲んで店を出ると陽も落ちていた。
高架下を元町まで歩く。
元町『エヴィアン』、カウンターの隅の特等席で珈琲&読書。
オール読物に掲載の小説『それもまたちいさな光』を読了す。
角田光代がTBSのラジオドラマの原作として書いたページ数にして100枚弱の中編。
35歳のデザイン事務所で働く女性が主人公、彼女を巡る日常の生活と女友達と恋愛の物語。
ドラマチックな出来事はそんなに起こらないけどじんわりとしみる。
そうそう、そういえばラジオってそうなんだよね、と思わせられた。(意味不明ですね)
人が、それぞれの人生の、それぞれのステージ、それぞれの場所で、
働いている人も、子供を学校へ送っている人も、通勤電車にもまれてる人も。
テキトーにやってる人も、精神的にまいってる人も、病院のベッドで動けない人も、
同時に、それぞれが別のことを考えながら聞くことが出来るのがラジオなんですね。
主人公の仁絵、友人の珠代、50代の鹿ノ子という女性が登場し、それぞれに恋愛話がある。
仁絵の幼なじみ雄大の若き日の苦く狂おしい恋愛が、過去のこととして語られる。
それらを、わかるわかる、って上から目線で読んでいる自分に気がつく。
たいした経験もなく、当然ながら経験から導かれた知恵もないくせにね。
でも、身心ともに下降線という代償は支払ってるんだから上から目線くらい許して欲しい。
小説の中にもあったけど、年齢とともに自分の中で価値観が逆転することって多々ある。
町田康が浪曲のプログラムに書いてた。
若い頃夢中になっていたロックスターが実は阿呆で、終わった芸能だと思っていた浪曲が輝きだす。
大事だと思っていたことが実は価値のないもので、
逆になんでもないことに価値があったということに、
たまにだけど、時間が経つと気がつく。
竜胆美帆子(りんどうみほこ)というラジオパーソナリティーがある日から変わる。
帯番組のパーソナリティーとして新聞全紙に目を通し時事問題やトレンドをチェックし、
放送のある日はお酒を飲まないとストイックに自分を律してきた彼女だったが、
ある日からそういう生活は全部やめて、どうでもいいことしか話さない、と決意する。
その転向は過去のこととして語られるが、小説の中でいちばん印象的な出来事だった。


毎日、日常のどうでもいいことを話すラジオ。
このぷよねこ日記も“どうでもいいこと”という点では同じ。
自己肯定、この小説を読んで良かったと思った次第。
どうでもいいような些細な日常が数十年経て思い出されることがある。
実はどうなったかという結果よりもそこで過ごした何でもない日々に価値が宿る。
『それもまた小さな光』というアメリカの短編小説のような題名はそういうことなのかと思った。


TBSで放送されたラジオドラマは聞けなかった。
Podcastで配信されないものか。
http://www.tbsradio.jp/hikari/index.html
あのBSマンガ夜話の敏腕アシスタントだった笹峯愛がDJ役で出演している。


せっかく元町まで来たので海文堂へ寄る。
川本三郎の新刊が2冊出ていた。
『君のいない食卓』を買う。
川本三郎は奥様をガンで亡くしたそうだ。
徳岡孝夫の『舌づくし』を思い出す。
店頭でCDやDVDを売っていた。
もしや、と思って探すと、あった。
広沢虎造『清水次郎長傳』全集のCDが!
2話づつ入って全14話の7巻、外伝がさらに3枚。
一枚1000円、まだ聞いてない「お民の度胸」からあとの3枚を買う。
朝のジョギングが楽しみだ。