2012/1/4 誰も僕から奪えない

三浦しをんの小説ではないが今朝は“風が強く吹いている”。
5階にある我が部屋のサッシが六甲おろしにガタガタと震えている。
正月4日にして連続ジョグが途絶えるのも情けない。
天気はいいので、ええいっと飛び出す。


西からの季節風が吹きつける。
大阪湾内にある西宮の入り江にも珍しく波が立っていた。


いつもの湾岸5キロコースは回避。
夙川公園の3キロコースとする。
昨日10キロ走ったからね。
海の表情がいつもと違う。
波打ち際を少し走ってデジカメで写真を撮る。
光の陰影が濃いと白黒にしたくなる。
『冬波の立つ日』モノクローム3点


    


    


    




波の写真を並べて思い出した本がある。
稲越功一村上春樹のフォトエッセイ『波の絵、波の話』(文藝春秋
1984年3月25日第一刷、発行者は半藤一利とある。
数年前に亡くなった稲越功一は43歳、村上春樹は35歳。
比べる対象でもないが、ちなみに僕がこの本を買ったのは27歳。
ロス五輪の年だ。


好きな写真集で、30年近くが経つのに時々思い出したように本棚から引っ張り出す。
今でも逆光の海に惹かれるのはこの本の影響かもしれない。


本の中で村上春樹がエッセイとポピュラーソングの訳詞を載せている。
ドアーズ、グレン・キャンベル、CCRビーチボーイズ…。
歌のタイトルは一般に知られているものとは違い原題を直訳している。
グレン・キャンベルの「恋はフェニックス」は「僕がフェニックスに着くころ」になる。


ジャズも数曲ある。
「誰にも奪えぬこの想い」(They can't take that away from me)
村上春樹は「誰も僕から奪えない」と訳している。


    The way you wear your hat
    The way you sip your tea
    The memory of all that
    No they can't take that away from me


    The way your smile just beams
    The way you sing off key
    The way you haunt my dreams
    No, no they can't take that away from me


    We may never never meet again, on that bumpy road to love
    Still I'll always, always keep the memory of



僕がこの歌を知ったのは学生時代、フランク・シナトラのLPだった。
シナトラらしい、洒脱で軽快なイメージの歌。
ライナーノーツを読んで、これが悲しいトーチソング(失恋の歌)ということを知った。
どんな理由で恋人が去っていったのか、はたまた死別したのかはわからない。
決して難しい英語ではないのだがこの村上訳を読むまでピンと来なかった。
6年前、ボストンでステーシー・ケントという女性シンガーの「誰にも奪えぬこの想い」をライブで聞いた。
しっとりと優しく歌ってたなあ。
今の年齢になってまたひとつ理解度が深まったような気がする。
お金も、仕事も、友達も、家族さえも、いずれ僕から去っていく。
でも、思い出は “誰も僕から奪えない” のだ。



…お馴染みの「カラバイア」というサイトがTwitterで紹介されていた。
イトマキエイが集団でジャンプするという映像が凄い。
元はYou-Tube、いや元はBBC制作の映画だろう。
理屈じゃなくて見る価値がある。
http://karapaia.livedoor.biz/archives/52058529.html



…2012年の初ライブコンサートへ行く。
宮川彬良&アンサンブル・ベガ ニューイヤーコンサート2012』@芸文センター
小編成のクラシック管弦楽団宮川彬良の楽しいトークショーでした。


アンサンブル楽団の編成は1stヴァイオリン、2ndヴァイオリン、ビオラ
チェロ、コントラバスクラリネットファゴット宮川彬良のピアノ。
エルガーの『愛の挨拶』、ブラームスの『ハンガリアン舞曲』、
ドボルザークの『ユーモレスク』などなどお馴染みの曲を演奏してくれる。
それぞれに宮川彬良の解説がつく。
作曲家のエピソードが楽しい。


最高に面白かったのがメンバーが宮川彬良のアテレコで演じる寸劇。
『ヘンリー・パーセルの主題によるフーガ』
中学か高校の音楽の授業で聞いた有名なバロックの楽曲。
一本のヴァイオリンから始まり、次々に楽器が加わって、
しだいに美しいアンサンブルが出来上がる様を面白可笑しく演じてくれる。
主旋律ヴァイオリンの独奏でテーマが演奏される。
そして、+ 和音&リズム担当のヴァイオリン(第2ヴァイオリン)
次に、 + ヴィオラ

  1. チェロ&コントラバス
  2. クラリネット
  3. ファゴット
  4. ホルン

てな具合。


ちなみにパーセルの主題はこれです。


自在に楽器を操る10人を見ながら思った。
(前にもコンサートの感想として同じようなことを書いた記憶がある)
彼らは「音楽の民」なのだと。
自在に音を操る能力を備えた民族なのだと。
彼らはおそらく、僕らが酒を飲んだり、ぶらぶらと旅したり、
マンガを読んだり、映画を観たり、昼寝をしている同じ時間に、
彼らや彼女らは単純な反復練習を繰り返していたのだ。
そうして得た能力なのだと思う。
何かを犠牲にしてつまらない人生を送ったというわけではない。
(当然、恋もしたり、酒を飲んだり、映画を見たり、昼寝もしたでしょう)
でも、何かを失えば何かを得る。
彼らはその種の取り引きをした結果、音楽の民になり得たのだと思う。


「音楽の民」
楽譜が読めて、楽器を鼻歌のように弾けて、作曲や編曲なんて神業のような能力を持つ。
僕は小中学生のころ、音楽の授業が好きだった。
クラシック音楽のレコードを音楽室のステレオセットで聴くのが楽しみだった。
でも、家族や親戚にはピアノやギターや三味線が弾ける人間が一人もいなかった。
我が身の不運を嘆いたり、親を恨んでるわけではないが、そういう環境って大きいと思う。
僕が楽器を触ったのはあの時代のらしくヤマハのフォークギターだった。
本当に好きならそこからプロ並みの腕前になる人だっているのは知ってます。
でも、環境というのは不思議なものだと思う。
単純ではない。
文化や芸術とは縁のない田舎に育った子供が、あこがれてその道を指向することもあるし、
都市部に育ち、欲すれば映画も演劇もコンサートも行ける環境にありながら、芸術や文化に何の興味も持たない子供もいる。


余談だが宮川彬良大竹まことのラジオ番組で言ってた。
「オヤジ(宮川泰)は数年前に亡くなったんですが、いまだにお金を稼いでくれる」と。
音楽の印税(著作権)は世界共通でエバーグリーンだからね。
宇宙戦艦ヤマト」を始め膨大な数の作曲、編曲作品を残した。
宮川作品で僕の好きなのは、「君をのせて」(沢田研二)、「お嫁さん」(梓みちよ)、
「若いってすばらしい」(槇みちる)、「涙のかわくまで」(西田佐知子)などなど。


…夕ご飯は回転寿司にしよう。
臨港線の「スシロー」へ行く。
10分ほど並んで待つ。
二人で13皿食べて満足。
まわる寿司も悪くない。
甘エビマヨ、コーン、ツナなんて怪しげな軍艦巻きは鮨屋では食べられない。
回転寿司は別の料理、と考えればこれはこれで有り。