ぷよねこ減量日記 2009/5-2016/1

旧ぷよねこ減量日記です。2016年1月に新旧交代してます。

2012/1/8 浪花節とジャンジャン横町 

朝、30分走る。
夙川沿いの梅林、白梅のつぼみはまだ固い。
2月始めの開花に向けて仕度中である。


香櫨園浜で撮った一枚。
70年代の青春映画っぽくありませんか?
よくわからない?
いや、ただ何となくそう思ったもので。



…連日の浪曲寄席です。
今日おともしたのは東大阪の住職K輪氏と落語家の笑福亭生喬師匠。
お二人は「ごくらくらくごの会」の席亭と主催者(演者)の間柄です。
師匠は天王寺のご近所に住んでいるようで自転車でお越しになりました。


今日の出演者は順に、幸いってん、天中軒雲月、真山一郎、三原佐知子。
いやあ、またひとつ関西浪曲界の底力を見せつけられた感がします。


幸いってんさんは30代、関西では数少ない男の若手浪曲師です。
突発性の骨髄性白血病で生死をさまよい、去年 舞台10月に復帰したばかり。
病気になる前はやんちゃそうな茶髪の人気浪曲師さんでした。
二度の骨髄移植、致死量ギリギリの抗がん剤治療を乗り越えての復活劇。
実は、去年12月にここ一心寺で聞いた時が一心寺浪曲寄席に復帰の舞台でした。
     

その時は事情を全く知らなかったのですが、観客席からのただならぬ空気は察知しました。
いってんさんからも人生をかけた決意が感じられ、よくわからないまま感動した復帰舞台でした。
舞台の後、ご本人と少し話をしました。
今も抗がん剤治療は続けておられ、移植が成功するかはいまだ予断は許さない状況だとか。
文字通り命を賭けた舞台なのでしょう。
そのときの演目は相撲ネタの『雷電遺恨相撲 雷電八角』でした。
今日の演目は寛永三馬術 間垣平九朗シリーズの『大井川乗り切り』、
奇しくも(ラッキーなことに)昨日聞いた京山幸枝若師匠の『間垣と度々平』の続編だったのです。
『大井川乗り切り』、面白かった。
痛快活劇、決して泣くような話じゃないのにじーんと目頭が熱くなる。
本人は不本意かもしれませんが、発せられる“気”が、聞く者に伝わるのでしょうか。
初っぱなから満場の拍手。
いってんさんの舞台、今後も出来れば全部見たいと思いました。
   
読売テレビのクルーの撮影が入る。
端の席だったのですぐ隣でカメラマンと助手がごそごそと動く。
前半は気が散ってなかなか集中出来なかった。
報道のドキュメント班だろうか。


2番手は僕やK輪住職とmixiツイッター友達でもある天中軒雲月さん。
演目は師匠譲りの大ネタ『佐倉義民伝』の抜き読み(こんな言い方があるのです)で「妻子別れ」。
雲月さん、達者ですね。
3度聞いただけの僕が言うのも失礼だけど安定感がある。
生喬師匠も、低音になってもよう声が響くわ、と感心されてました。
ごまかしのない堂々たる節です。
雲月さんの舞台にはちょっとした特典がある。
三味線の曲師が沢村さくらさんなのです。
会場から「さくらちゃん!」と声がかかるほどの人気美人曲師。
僕も文楽劇場の演芸会で初めて見たときにハッとしました。
和服姿は凛としてしっとり、祇園の姉さんのよう。
さくらさんは元々東京で活躍する曲師で結婚して関西に来られたとか。
生喬師匠が、あんな若くて美人が関西にとられてもうて江戸の浪曲界もショックやったん違いますか、と言う。
かけ声もかわいくて雲月さんの舞台はダブルで楽しみがあります。
沢村さくらさんを見ていると、芦川いづみのような一昔前の映画女優の雰囲気を持っている。
浪曲ファンの爺さん方にはど真ん中ストライクでしょう。


3番手は真山一郎さん。
名跡 真山一郎を襲名したのは一昨年の12月、二代目です。
僕が今日イチで驚いたのはこの人。
なんだか凄いのを見た、という思いです。
恐るべし浪曲ワールド! 奥が深い。
K輪氏に思わず、また凄いのが出てきましたね、とつぶやいてしまった。
演目は真山一門の十八番『南部坂 雪の別れ』、いやあ圧巻でした。
何が凄いって、とにかく聞いて下さい。
真山広若時代の『刃傷松の廊下』です。
パンチの橋幸夫、1分過ぎの顔芸に注目下さい。

僕らは前から3列目、至近距離で聞いて笑っちゃいましたよ。
ど迫力の声量、歌舞伎役者のような顔芸&にらみ、堂々たる演技力…。
真山流の効果音もあいまって彦摩呂風に言うなら、これは一人東映時代劇やぁ! です。
風貌はムード歌謡のボーカル風、いまどきパンチパーマですよ。
関西浪曲界はこんな濃いのを隠しておったか、浪花節の最終兵器?

というか、僕らが知らなかっただけなんですけどね。
すいません。


トリは三原佐知子師匠。
御年七十二の大ベテラン、師走浪曲会に続いて僕は2度目です。
歴史の本に登場する女傑とは佐知子師匠のような人だったのでは思う。
ふだんは気さくな雰囲気で、窮地に立っても慌てず、
おたおたする男衆を、だまらっしゃい!と一喝し、凄腕で事を収める。
たとえば、松江の玄丹おかよとか、長崎の大浦慶、龍馬の姉 乙女、嫁のお竜のような。
とにかく七十代とは思えない朗々と響く声量、信じられない肺活量。
演目は『黒雲お辰』、背景を知らなくともわかり易いさわやかなお話でした。
ああ、もう一度聞きたい。
もうひとつ驚かされたのは三味線の岡本貞子師匠。
御年七十八、見かけは(失礼)正真正銘の後期高齢者、つまりはすんげ〜婆さん。
なのに三味線はキレがあり、かけ声は娘さんかと聞き間違えるような美しい声。
背伸びして貞子師匠を覗き見てしまった。
佐知子師匠と貞子師匠、あわせて150歳の共演。
こんな凄い芸能を僕はこの歳までノーマークだったのだ。



僕にとって5度目の浪曲会。
浪曲おそるべしです。
師走浪曲会のプログラムに町田康さんが書いていた。


  死ぬのはしかし早計である。
  世の中には浪曲があるからだ。
  どういう訳か、浪曲を聞くと感動する。
  心が動く。涙がこぼれる。
  なぜこのように心が動くのか。それは浪曲という芸能が
  私たちの心の奥に長いこと保存されていたあるものであるからである。


同感であります。
しかも浪曲会は2000円、ふところに優しい。


終演後、K輪住職が沢村さくらさんを見つけ写真をお願いする。
僕も2ショット写真を撮ってもらう。
ヒーハー、いやミーハー!



…連日の浪曲寄席のあとは新世界ジャンジャン横町で呑む。
天王寺公園から動物園を抜けて通天閣のふところへ分け入る。
このあたりは生喬師匠のテリトリーらしく案内をお願いする。
日曜は混んでるかと思ったが師匠曰く、観光客の行く店は決まってますから、とのこと。
案の定、串カツでも並んでるのは小ぎれいな店に限られている。
同じ串カツを食べさす店でも高齢者ワーキングクラスが集う店に行列はない。
それでいい。
聖域に踏み込んではいけない。


同じ関西に住み、同じ大阪市内を飲みのテリトリーにしている僕らでもここは異界だ。
旅路の果てにたどりついた土地という感覚を覚える。
たとえばここ。

新世界、ジャンジャン横町。
うどん一杯 150円!
2012年において世界最安ではないだろうか。
ちなみにきつねうどんは200円。


今なお『王将』の世界がある。


午後4時、最初はここ『大興寿司』
激安の寿司屋。
デフォルトで3貫150円。
3人で食べるには一人一貫ずつでちょうどいい。
寿司も小ぶりで、なかなかどうして結構イケます。

浪曲や落語の話をネタに熱燗が進む。
笑福亭一門といえば酒好きというイメージがある。
メニューに茶碗蒸しがある。
250円。
生喬師匠もK輪氏も口を揃えて、茶碗蒸しで飲むのが好き、と言う。
なるほど!
つまみになる具がいろいろ入っていつまでも温かい。
茶碗蒸しでお銚子2本はイケると言う。
関西落語会の大御所 桂 B 朝師匠は鍋焼きうどんで飲むのが好きとのこと。
これもナットク。
天ぷらで飲んで、蒲鉾で飲んで、焼き穴子で飲んで、ネギで飲む。
〆はうどん、よく出来てる。
東京人は蕎麦で飲む。(大阪人も同じだけど)
くだんの B 朝師匠が神田の名店Yで飲んだ。
蕎麦を注文せずにひたすら飲み続けていたら店の人からもう出てってくれと言われたらしい。
人間国宝が追い出された!


しばらく飲んでいたら若者のグループが隣に座る。
女子がひとり。
どっかで見たことある。
タナカリツコ!
なぜか関西弁で話してた。
全盛期の三浦カズと噂になってた子だよな。
もう40くらいだろうか。
そうは見えないけど。
今日はミーハーな僕です。


2軒目は『ホルモン道場』。
ジャンジャン横町では老舗のホルモン酒場だそうな。

醤油だれでなくソース味のたれ、おそらくウスターをベースにした秘伝のソース。
目の前の鉄板で焼いてくれる。
ホルモンが身体に染みこんでいるアンティークなおっちゃんがコテさばきも鮮やかに手際よく焼く。
この人は何十年、ここでホルモンを焼き続けているのだろう。
ホテルに入っている高級な鉄板焼もこれが元祖である。


見よ、のれんに染みこんだ幾星霜の歳月を。


このあと、さらに濃いエリアを歩き天王寺へ戻る。
今日は『明治屋』はお休み、『正宗屋』でもう少し飲む。
住職のお寺で鴨せり鍋で飲もうという話になる。
なんでも住職の奥様の実家が大分の日田で毎年セリが送られてくるのだそう。
香りが強くて最高なのだとか。