テオ・アンゲロプロスが急死した。
世界のあらゆう映画と一線を画す美しく重厚な作品群を残して。
巨匠という呼称は彼のためにある。
好きな作品が3つある。
「霧の中の風景」はどこの映画館で見ただろうか。
20年以上前のことだからすでに記憶は奥底に埋もれている。
幼い姉弟のロードムービー。
テオ・アンゲロプロスの映画の字幕翻訳をしている池澤夏樹がエッセイでこの映画のモノローグを引いていた。
木の葉のように、旅をしてます。
世界は不思議です。
鞄や、凍てついた駅や、わからない言葉と身振り。
恐ろしい夜。
でも、楽しい旅です。
まだまだ続きます
映画で5歳の弟、アレキサンドロスの独白。
池澤夏樹は自分で翻訳しながら言うのは何だが、この台詞だけでも傑作、と書いていた。
一編の美しい詩だと思う。
「ユリシーズの瞳」はテアトル梅田で見た。
ただただ圧倒された。
エレニ・カラインドロウの音楽ほど悲しみをたたえた音を他に知らない。
「永遠と一日」はヒロと新開地のパルシネマで見た。
彼女はこの映画が一番好きだという。
ハリウッドや日本の映画監督はなんだかオタクみたいな人が映画撮ってる感じだけど、テオ・アンゲロプロスは違う種類の人だと思った。
同時代の人なのに歴史上の人物のような思いで見ていたのだと思う。
カメラの横で彼は、どんな服を着て、どんな椅子に座って、映画を撮っていたのだろう。
印象に残るシーンが集められた動画。
一枚一枚が名画のようなクオリティの高さ。
シェークスピア劇た歌舞伎のような様式美。
過酷な20世紀の歴史に、民族の試練に、家族の運命の前に“ただ立ち尽くす人々”
ギリシャ現代史3部作の完結編としての映画を撮影中だったという。
いま、経済が破綻し、滅びていく母国をどう描くのかが見たかった。