2012/1/27 黄海 Yellow Sea

デスク3連投の最終日、レイトショーで『哀しき獣(原題 黄海 Yellow Sea)』を見た。
長渕じゃありません。
大鶴義丹じゃありません。
加瀬亮でもありません。

あの『チェイサー』の監督が同じキャストで撮った新作。
ナ・ホンジン監督と主演のコンビ、いやあ、あいかわらず強烈な映画でした。


ことし初めて劇場で見た映画。
レビューを書くのが遅くなり例によって散発的なつぶやきを備忘録として記す。
その前に自分が忘れないようにおおまかなあらすじをコピペしておこう。


   中国、延辺朝鮮族自治州・延吉で妻と娘と暮らすタクシー運転手グナム(ハ・ジョンウ)は生活が苦しく、
   娘はグナムの母に預け、妻は韓国へ出稼ぎに行く。しかし妻からの送金はなく、音信も途絶える。
   妻の入国資金として作った6万元の借金を返すため、グナムは高いレートの麻雀に手を出し、負けてしまう。
   返済を迫られたグナムは、請負殺人ブローカーのミョン(キム・ユンソク)との取引に応じる。
   それは借金帳消しの代わりに、韓国へ行き1人殺すというものだった。
   グナムは密航船で韓国に渡る。ブローカーから中国へ帰る船便の日付、場所を言い渡されたグナムは、
   標的である体育大学教授キム・スンヒョンのいるソウルへ向かう。グナムは暗殺の準備を進めながら、妻の行方を捜す。


   



・ナ・ホンジン作品の最大の特徴はスクリーンに充満するニオイだ。
 匂いではなく臭い。
 『チェイサー 追撃者』ではソウルのいかがわしい街の汗と食物と腐臭。
 今回は吉林省の雀荘に満ちた安タバコと男たちの体臭で始まり、
 車の排気ガス、食用犬市場の獣臭、食堂の肉料理、密航船の汗と垢…。
 どっちにしてもロクなもんじゃない。
 でも、人はニオイに惹かれるのだ。
 

・舞台環境は前作と極端に変わる。
 『チェイサー』は酷暑、風もなくとことん蒸し暑い。
 『哀しき獣』は極寒、寒風に手指が動かなくなるほど凍りつく。


・見るべきは中国吉林省延吉での20分ほどのプロローグ。
 これだけでもレイトショー料金1200円を払う価値あり。
 うす汚い街、紫煙の充満する雀荘と男たち、主人公グナムのアパート。
 吉林省から大連の港へ走る列車、密航する中国漁船、恐ろしい夜の黄海
 どうしてこんな“汚れた画面”に心奪われるのか?
 兵庫県知事が見たら憤慨必至の映像美です。

 
・韓国における中国籍朝鮮族の差別的なポジションを初めて知る。
 おそらく言語にも強い訛りがあったり発する空気にも違いがあるのだろう。
 同じ朝鮮民族なのに映画の中でも「朝鮮族」と明らかに蔑視されている。
 http://ja.wikipedia.org/wiki/朝鮮族


・いったん殺戮が始まってしまったらノンストップ、誰にも止められない。
 この疾走感が見る者の心拍数を上昇させる。
 映画そのものがボクシングの血なまぐさい試合とするなら、
 静かな探り合いのアウトボクシングが一発のラッキーパンチで劇的に変化する。
 しかも殴り合うのはグローブじゃない。
 ナ・ホンジンお得意の凶器、斧、包丁、牛の大腿骨。
 後半はスプラッターとカーチェイスの連続。
 もういいよ、やめてあげて、と言っても誰もやめないのだ。


・そりゃあそれだけ次々に人が死ねば辻褄が合わないし、物語に破綻が出る。
 冴えないタクシ運転手がソウルに来て突然 戦闘マシーンと化す。
 だって主人公が簡単に殺されたら映画にならないだろって?
 見ている者は、なぜこいつがこいつを殺しているのか、がわからなくなる。
 最後の方になって理由が明らかになっても、じゃああいつは何で殺したの? とまだ疑問は残る。
 すっきりしなくてもラストシーンはどうしようもなく哀しい。
 僕らはいつのまにか映画の力に手足を固められギブアップしていた。


・この映画、バイオレンスやカーチェイスの編集、ムチャクチャ上手い。
 出てくる奴らが『アウトレイジ』の数十倍恐い。


黄海での船上シーンが前半と後半に2回ある。
 どちらも暗い夜の海だ。
 2回ともゴミのように人間が捨てられる。
 恐ろしい海だ。


・日本のクライムサスペンスより数倍怖い。
 なんでだろうと考えてみた。
 出てくる奴らがみんなリアルなんだ。
 中鮮国境の吉林省にこんな奴らがいそうなのだ。
 そして、実際には正体も不明だから何をするかわからないと思わせるからだ。
 こいつら役者じゃないと言われたら信じる。

 

タクシーの運転者が恐るべき戦闘能力を備えていた。
というヒーローアクション映画ではありません。
今回も『チェイサー』同様、韓国警察は無能な存在として描かれる。


殺された大学教授の妻、美人です。


前作では元刑事、今風俗店のゴミ店長を演じていたキム・ユンソク。
太った浅野忠信って感じの役者です。
今回は“悪の怪物”、あるいは“殺戮モンスター”として登場します。
ミナミでこの映画を見たA木との間ではイヌ社長と呼んでます。
武器は包丁、斧、牛の骨。



フランチャイズの中国吉林省からアウェイの韓国ソウルに乗り込むイヌ社長。
自分を殺しに来た連中を惨殺して、その親玉に電話する。
「おう、今ソウルに来とんねん、すぐにそっち行くから待っとけや」
映画を見た人なら、こえええええ! って思い出すシーンです。


こわいけど見てみたいという方はこちらを。
http://www.youtube.com/watch?v=OlY8BPAHyYQ