ぷよねこ減量日記 2009/5-2016/1

旧ぷよねこ減量日記です。2016年1月に新旧交代してます。

2009/5/26 由布岳と壁湯温泉

   


船室の明かりがついた。
枕元の腕時計を見ると5時半。
顔を洗いデッキに出るとフェリーは穏やかな海を悠々と進んでいる。
うっすらと雲がかかる。
天気予報は晴れ、朝の曇りは晴れるという。
進行方向の左側に細長い島影が見える。
佐田岬半島だ。


…午前7時、「さんふらわあぱーる」は大分港に着岸、下船する。
レンタカー屋の営業開始が8時なのでしばし待合室で時間をつぶす。
ヒロは読書、吉田修一の『悪人』という本を読んでいる。
フェリーの船内からコンテナを下ろす作業が見える。
頭だけのトレーラーが船内に入ってはコンテナを引っ張って出てくる。
コンテナをヤードに並べて、また船内に入っていく。
その繰り返し。
コンテナをつけていない頭でっかちの姿がスターウォーズのR2D2を思わせる。
働き者のロボット。


トヨタレンタカーでベルタを借りる。
別大マラソンのコースを走り別府へ、市街地を通りぬけ峠越えで由布岳登山口。
豊後富士の別名があるが、由布岳はトロイデ(鐘状火山)だ。
釣鐘型にそびえたっている。
本家の富士山はコニーデ(成層火山)だ。
身支度をして、午前9時30分に登り始める。

   

草原を歩き、樹林帯へ入る。
涼しくて気持ちがいい。
途中でザックに初心者マーク(若葉マーク)をつけた老夫婦を抜く。
若葉マークをつけてはいるが年期の入ったザック、爺さんはかなりの熟達者と見た。
40分ほどで合野越という鞍部に出る。
タニウツギが咲いている。
「夏は来ぬ」の歌詞に出てくる卯の花である。


ここから頂上直下のマタエという箇所まで1時間のコースタイム。
休憩せずに登り始める。
樹林帯のゆるやかな傾斜の登山道をジグザグに登っていく。
やがて展望のある道、湯布院の町が眼下に広がる。
登山道の脇にミヤマキリシマが咲いている。
やがて、ゆるやかな登りから急登になる。
1時間過ぎたのにマタエが見えない。
マタエはまだか。


だんだんと腹が立ってくる。
怒りながら山を登る。
登りがキツいのとコースタイムに遅れをとっている焦りのせいか。
それともフェリーでの睡眠が浅かったのか。
いつのまにか堪え性のない老人になってしまった。
仕事もしないで好きに暮らしているからだろうか。
我慢する力が失われているのだろうか。
そういえば子供の頃、近所に怒りっぽい老人がいたなあ、と思い出す。
いつも不機嫌で弱い子供を怒鳴り散らすような。
今の年齢になってその老人の気持ちが少し分かるような気がする。
でも、それは日記を書いてる時点でのこと。
僕は由布岳を怒りながら登っていた。

清志郎の『トランジスタラジオ』の歌詞を変えてヒロが歌う。
♪ 怒りながら山を登っていたら 口がとんがっちまったあ
 イライラしてばかりいたら 目が三角になっちまったあ


コースタイムより30分ほどビハインドで頂上直下のマタエに到着。
眺めのいい場所。
なぜマタエというか?
由布岳は双耳峰なのだ。
その中間にあるからマタエ。
双耳峰(そうじほう)とは頂上が二つある山。
とんがったロバの耳のように、あるいは悪魔の耳のように。
実に面倒な山でもある。
どちらも登らなければいけない。
手間のかかる山である。
麓から眺めるにはなかなかいいんですけどね。


双耳峰で一番有名なのは北アルプスの鹿島槍だろうか。
ここは南峰と北峰がある。
あの悪魔の山として有名な谷川岳も双耳峰だった。
トマの耳とオキの耳という二つのピークがある。
耳というのですね。

   
 

由布岳には西峰と東峰がある。
標高はほぼ同じ、一等三角点は西峰にある。
険しいのは西峰で岩が切り立っている。
まずは険しい方から攻める。
いきなりの鎖場。
ちょっとしたフリークライミングだ。
途中、岩壁をトラバースする箇所がある。
ヒロはトラバースが苦手、びびりながら通過する。
(トラバースとは横移動のこと)
30分弱で登頂。
ピーク付近はミヤマキリシマが咲いている。
誰もいないので昼食。
コンビニおにぎりを2つ食べる。

  


来た道を下り、再びマタエ。
東峰に登る。
こちらはジグザグの急登だ。
15分ほどで登頂。
頂上付近にミヤマキリシマの群落。
記念写真を撮って下山する。


同じ道を下る。
1時間ほどで合野越に到着。
ここから来た道ではなく稲盛ケ城1067mという草地の山を経由する道をとる。
風の吹く草地を登る。
気持ちがいい。
稲盛ケ城の頂はちょっとした広場になっている。
眺めは最高。
南側には緑の丘陵、スコットランドのようなランドスケープだ。
あるいは道東や礼文島を思わせる風景。
由布岳はここに登れば十分だなあ、と思う。
実に気持ちのいい場所だ。
登山口から1時間もあればこの場所に来られる。
眺めのいい草原でのんびり1時間ほど過ごせばいい。
ペニー・ウィッスルで『Down by the Sally Garden』を吹く。
うまく吹けたね、ヒロが初めて誉めてくれた。


駐車場に戻る。
9時半に出発して4時に戻る。
休憩時間を合わせて6時間半の山登りだ。


湯布院のローソンで冷凍ミカンとレモン味のみぞれアイスを買う。
冷甘酸を乾いた喉と身体が欲していた。
冷たくて、甘くて、酸っぱい味を堪能する。


…宿は壁湯温泉『福本屋』です。
3年前の4月、世界クロカンの仕事で福岡に滞在したあとにヒロを呼び泊まった。
今回は「朝日旅行会 日本秘湯を守る会」のスタンプが貯まったので一名分無料。

http://www.kabeyu.jp/index.html

町田川沿いに岩をくり抜いた露天風呂がある。
足もとから湯が沸く。
38度くらいのぬる湯だ。
前回はのべ3時間くらい浸かっていたと日記にある。
今回は他に客もなく大きな露天を独占。
川沿いの木々は若葉緑、初夏の風を肌に感じながら湯浴みする。


宿の仲居さんが僕らのことを憶えていた。
え? 3年前に一泊しただけですよ。
聞くと、ヒロがその仲居さんの友人に瓜二つだそうな。
それを聞いて僕らも思い出した。
どこかの宿でそんな話をされたなあ、と記憶にあったがこの宿だったんだ。
でも、その仲居さんは60台後半、ヒロは複雑に違いない。


お食事処で夕食。
前回は板の間に座布団で座る形式だったが、今回は低いベンチが用意されている。
年配者の客が多く、膝痛で正座出来ない人のためらしい。
ヒロも正座が苦手なのでこれは大歓迎。
木のベンチに座ると卓が低い。
中途半端な姿勢になる。
なんだかキャンプの食事みたいだ。


明日の天気予報を知って落胆。
雨、ときおり強くなり雷を伴うという。
大分県に雷注意報が出る。
週間天気予報はあてにならない。
雨や霧に煙る阿蘇や久住の山岳風景は悪くない。
雨は覚悟していた、いや期待してもいた。
でも、雷は駄目。
一昨日の雷がジョガーが直撃した。 
昔は梅雨入り前のこの季節に雷はあまりなかった記憶がある。
雷鳴とともに梅雨明け、が常道だったが。