2012/2/9 長谷川きよしライブ@京都RAG


谷川きよしの歌を聞くとあのころを思い出す。
セーヌ左岸、大学広場に面したビストロで毎晩のようにボルドーのボトルを空けたことを。
ポンピドーセンターで一番人気を集めていた大道芸人ジャンの哀しそうな笑顔を。
ポンヌフの橋の上で無言で川面を見つめていたコレット、彼女の青い瞳に映った朝の光を。
谷川きよしのシャンソンを聴きながら、僕はしばしありもしない追憶にふける。
そんな錯覚をさせる魔法のような歌声。
パリなんて…通り過ぎただけで泊まったことがないのに。


 
京都の 老舗ライブハウスRAG で長谷川きよしのライブを味わった。
3月に神戸の松方ホールで聞いたときと同じ、いや、それ以上に極上の味わいだった。
ここ数年、いろんなミュージシャンのライブ演奏を年平均10回以上聴くようになった。
たまにはハズレもある。
谷川きよしに関しては満足度100%だ。
チケット代やライブチャージを高いと思ったことはない。
声が素晴らしい。
ギターもしびれる。
還暦を越えて全く衰えがない。
行くチャンスがあるなら絶対に行くべきだ、と自信を持って言える。


今回のライブは眼鏡堂さんがバー『文久』で仕入れてきた情報で行くことになった。
思えば3月もそうだった。
3月19日、大阪で僕と飲んだ眼鏡堂氏は大阪市内に泊まるところが見つからず京都に宿をとった。
あのころはウエスタンシフト、週末には東京から一時避難民が関西へ流れてきていた。
京都へ泊まるなら、と無責任にも自分も行ったことがないバーを紹介した。
そのバーが『文久』そこで眼鏡堂氏は長谷川きよしさんと出会った。
僕はメールをもらった。
21日に神戸でコンサートがあるらしいですよ、と。
ヒロに話すと行きたいと言う。
彼女は西宮に来た時に一人でコンサートへ行きファンになった。
電話で予約し二人で松方ホールへ聞きに行った。
アンコールで歌った『愛の讃歌』に背筋がぞくっとした。
また行きたいと思った。
出来るなら小さなハコで聞きたい。
今夜、京都で実現した。


前回のコンサートの感想をいまだに書けずにいる。
あの頃の日記は歯抜けばかりだ。
http://d.hatena.ne.jp/shioshiohida/20110322/1300721851



3月の松方ホールでは後ろから3番目でステージからはるかに遠かった。
今回は早めに行って最前列を確保する。
大相撲で言えば砂かぶり、ストリップで言えばかぶりつき。
眼鏡堂さんと長谷川きよしの距離は2メートル、僕からでも3メートル。
至近距離で堪能しました。


谷川きよし(ギター、ヴォーカル)と林正樹(ピアノ)だけのユニット。
林正樹さんは去年大阪で聴いたことがある。
5月、堂島のミスターケリーズだった。
(このライブのことも日記から欠落している)
ベースは東京、柔和な笑顔でリリカルな音をつむぐ手練れのピアニストです。


    


セットリストは手元にありませんが記憶にある曲名とYou-Tubeで聞ける歌唱を並べてみます。
ブラジルのボサノヴァ系を5曲ほど聴きましたが曲名が思い出せません。
You-Tube から長谷川きよしの歌唱、カバー曲はオリジナルを探してみました。



2曲目にいきなり『別れのサンバ』、浪曲なら、待ってました! と声が飛ぶところ。
シャンソン青年だった長谷川きよしのデビュー曲、1969年だった。


  別れのサンバ    http://www.youtube.com/watch?v=XYEPErAdFis
  by 長谷川きよし


シャンソンが2曲続く。   
ありもしないパリ時代の追憶にひたる。
ミラボー橋』 歌い出しにゾクゾクっとする。

 
  ミラボー橋の下をセーヌ川が流れ  われらの恋が流れる

              (アポリネール 堀口大学訳)


  ミラボー橋     http://www.youtube.com/watch?v=3rGgkeJ6L7o
  by Léo Ferré



ラ・ボエーム』 シャルル・アズナブール、粋だねえ。


  ラ・ボエーム    http://www.youtube.com/watch?v=g8EfvtCCyPc
  by Charles Aznavour



『クリフォードの思い出』 夭逝した若きトランペッターにベニー・ゴルソンが捧げた美しい曲。
ジャズバラードで一番好きな曲かも知れない。この曲のソロを吹いたリー・モーガンも若くして死んでしまった。
ヴォーカルで聴くのは初めてだった。長谷川きよしの初期のアルバムに収めれているらしい。


  I remember Clifford   http://www.youtube.com/watch?v=jbt8nt5gQok
  by 長谷川きよし




休憩をはさんで後半、ピアノなしのギター弾き語りで3曲。
フランク永井のカバー『公園の手品師』


    鳩がとび立つ 公園の   銀杏(いちょう)は手品師   老いたピエロ


フランク永井もいいけど長谷川きよしの声も合うなあ。
君恋し』や『夜霧の第二国道』あたりもいいんだろうな。
デビューシングルの『別れのサンバ』のB面の曲『別離(わかれ)』はムード歌謡みたいだった。
これがいいのだ。
ちょっと聞いて見て下さい。
http://www.youtube.com/watch?v=yhBOwZw2DVs



  公園の手品師    http://www.youtube.com/watch?v=DMA5C5pVeMs
  by フランク永井


この季節に聴くとしみます。


  雪は降る      http://www.youtube.com/watch?v=95HvXTBjtK0
  by Salvatore Adamo


イントロで背筋がぞくっとした。
至近距離で歌い上げる『愛の讃歌』、眼鏡堂さんの背中もふるえていた?
この曲のギターがいい。
これが弾き語りという芸術、小さな身体から発せられる朗々としたハイトーンが美しい。
オーディエンスの魂が共鳴し揺さぶられる。


  愛の讃歌      http://www.youtube.com/watch?v=KkHnMy-980k
  by 長谷川きよし    


中原中也の詩に曲をつけた『月夜の浜辺』も痺れました。
林正樹のピアノも美しい。

  
  月夜の晩に、ボタンが一つ
  波打際に 落ちてゐた


  それを拾って、役立てようと
  僕は思ったわけでもないが
  なぜだかそれを捨てるに忍びず
  僕はそれを、袂(たもと)に入れた

                   (中原中也『月夜の浜辺』)



3月に聞いた『灰色の瞳』や『ひこうき雲』は聞けませんでした。
みんなのうたで歌った『鳩笛』も聴きたいなあ。
You-Tube で見つけた椎名林檎との共演が素晴らしい。
ここでの椎名林檎も好ましい。
パーカッションは仙道さおり
今回のライブで彼女がいなかったのが残念。
でも、林正樹とのデュエットというシンプルさも悪くなかった。

  



大満足、感動のライブが終わる。
眼鏡堂さんは楽屋に誘われ挨拶。
5月9日にまたここでライブがあるそうな。
今度は仙道さおりを加えてのトリオ、これは見逃せない。


四富会館の『たすく』で赤ワイン。
この店のお通しで出るオードブルは美味しい。
美味しいものを食べると幸福になる。
〆はチキンラーメン卵落とし。
音楽と酒、満足して歩いて常宿へ帰る。
大浴場であったまって幸せに眠る。