2011/1/14 人生二度目の文楽

朝、シリア戦の結果を知る。
2対1と薄氷の勝利だったみたい。
川島がレッドカードで一発退場になったらしい。
本田がPKをど真ん中に蹴ったらしい。
テレビドガッチという動画サイトで5分間のハイライト映像を見る。
便利な時代。
川島のは誤審だなあ。
岡崎へのファウルでPKを得た。
誤審へのバーターみたいに思える。


…局へ出てロケの準備作業を30分ほどする。
鶴見緑地線長堀橋南船場の「辛激屋(しげきや)」でチキンカレーご飯少なめを食べる。
前に激辛の黒カリーを食べたが刺激が入りすぎてダメージを受けた。
チキンカリーくらいがちょうどいい。
この店のルーはとろ味がなくしゃばしゃば系で僕の好み。
ターメリックとローレルの香りが強め。


鰻谷あたりを歩いて道頓堀を過ぎ千日前。
待ち合わせに少々時間があるので『丸福珈琲店』へ入る。
昭和9年創業、ナニワの濃厚珈琲の代表格。
竹本住大夫文楽のこころを語る』を読み直して予習する。
図書館で借りた写真満載のガイド本、高木秀樹『名作 文楽50 』を読み返す。
高木さんは歌舞伎や文楽のイヤホンガイドの名人です。
この人の短く囁くようなガイダンスと美声は人間国宝級です。



文楽新春公演@国立文楽劇場です。
5日にチケットを買いに来たときにあった玄関の門松が無い。
松が明けるとはこのことか。
劇場ロビーでヒロと合流、16時前に着席、席は4列目の15と16です。
なぜだかそのあたりだけ年配のおばさま方が集中してすし詰め状態。
ステージ上の字幕を見るのには見上げねばなりません。
大夫や三味線を見るにも首を右に振らねばなりません。
でも、人形はとても見やすい席です。
http://sakiho.com/Japanese/bunraku/seat/kbunraku.html

ヒロは2度目の文楽、でも文楽劇場は初体験。
京都南座で一度見たのだそうな。
僕も去年の夏に続き人生2度目の文楽観賞。
前回はよくわからないまま見たのだが今回は数冊の本や動画で予習済み。
気合いが入る。


去年の初体験の感想はこちら。
http://d.hatena.ne.jp/shioshiohida/20100803/1280798838


では、感想をツイートで。


『寿式三番叟』
寿と式三番叟、決して寿式ではない。
イアホンガイドは高木秀樹さんだ。
文楽にも舞踊演目があるのだ。
慶事、めでたい時にかかる演目で主に新春公演で上演される。
文楽劇場にスケールの小さい能舞台が現れる。


いわゆる“神楽”なのかな。
日本中の神様が大集結!
八百万の神様がオールスターキャストで舞い踊り奏でます。
「宇佐の神の御役にて、笛の初音も高円や、笛吹きの大明神」
九州から宇佐神宮の神様、奈良から高円宮の神様が笛を吹く。
「大鼓は高野の大明神、太鼓は熱田の源太夫、いずれも秘曲の打囃子」
高野山の神様が鼓を、熱田神宮の神様が太鼓を叩く。
何やらもの凄くめでたいことになってくる。
一瞬、『千と千尋の神隠し』の世界を思い出した。
日本中から八百万の神様が油屋に集まるのではなかったか。


千歳(若者)や翁(長老)が舞いを見せるとクライマックスは三番叟。
千歳や翁は神の領域だが三番叟は人間を表すそうな(by 高木秀樹)。
金色の烏帽子をつけた二人が舞います。


人形2体+人形遣いが3人で計6人が踊る。
舞台を右に左にところ狭しと激しく動き回る。
右往左往しているように見えないこともない。(失敬!)
顔の見える主遣い(顔と右手担当)の顔が紅潮し汗が流れる。
黒頭巾をかぶっている左遣いも足遣いも同様だろう。
人形2体が意地を張るようにこれでもかこれでもかと舞う。
主遣いは無表情のまま汗だく。
これは若い人形遣いじゃないと出来ないな。
人形遣いの大車輪の熱演に大きな拍手。


ここで“一瞬、他のこと考えて…シリーズ”(copyright : Misoji)
ヒロが言う。
「黒子がKKKに見えてしょうがない」
クー・クラックス・クラン
あれは白だろ。
黒子の頭が三角。
「黒いイカに見えてしょうがない」


http://www.ntj.jac.go.jp/performance/3581.html


『傾城反魂香』
けいせいはんごんこう、と読みます。
近松門左衛門作の時代物。
繰り返しあらすじや由来を予習して臨んだ演目。
簡単なあらすじをコピペします。(ネタバレ注意)


 喋りの不自由な絵師又平と妻のお徳は、「土佐」の苗字を名乗ることを許してもらうため、
 山科にある師匠 土佐将監の家を訪れます。しかし将監は、絵師としての手柄を立てない限り、
 苗字は授けられないと拒絶します。
 絶望した又平は死を決意し、この世の名残に手水鉢(ちょうずばち)へ
 絶筆となる自画像を描いたところ、この絵が手水鉢の裏側に浮き出る奇跡が起こります。
 これにより又平は、めでたく「土佐」の苗字を授けられ、
 土佐光起(とさのみつおき)を名乗ります。
 そして、原作にはないもひとつの奇跡が…!


人形浄瑠璃としては珍しくハッピーエンド。
新春公演向きなのでしょう。
なぜ又平は絶望して死を決意したか?
師匠に自分の吃り(どもり)を不具(かたわ)となじられたからである。
又兵は自らの思いを師匠に訴える。
どもりながらの悲痛な叫びが見所聞き所。


このクライマックス(切り場)を語るのが竹本住大夫である。
床がくるりと回って人間国宝 住大夫が登場する。
客席にどよめきが起こる。
「すみたゆう!」と一つかけ声が入る。
心なし人形遣いにも緊張が見える。
固唾を飲んで語りを待つ。
御年八十六。


「在所へ帰りける」
この短い文句をたあぁぁぁぁぁぁぁぁっぷりとおよそ1分くらいかけて語る。
これは凄い。
場面転換のブリッジなのだとか。


そして、おもむろに語り始める。
「ここに土佐の末弟(ばってい)、浮世又平重起という絵かきあり」
美声ではない。
デミ声だがよく響く。
「生まれついての口どもり、言舌明らかならざる上、家貧しくて身代は、薄き紙子の火燧箱(ひうちばこ)」
名調子で又平の哀れな身の上を語る。


又平の嘆きの見せ場。
住大夫が著書で書いている。

 
 又平のあわれさを出して語り、「かわいそうやな」と、お客さんに思わさなあきまへん。
                         (『文楽のこころを語る』より)


しゃべりの不自由さを出しつつも何を言ってるかを伝える。
かなり高等な技術です。
住大夫の台詞が又平人形に宿る。
この憐れな絵描きよ。


又平とは対照的に世話女房のおとくは早口で言舌なめらか。
“くちさばきをよくしてさらさら語らないけません”(住大夫)
この段は大夫のテクニックの見せ所です。
しかも、おとくを操るのはこれまた人間国宝 吉田蓑助。
語るも国宝、操るも国宝。


この演目はもう一度見たい。
歌舞伎でも見てみたい。


“一瞬、他のこと考えて…シリーズ”その2。
住大夫、どもりの語りで「拙者」を「へ、へ、へっしゃ」と言い、
「命にかえても」を「ひ、ひ、ひのちに、か、か、かえても」、
「命の相場が一分五厘」を「ひ、ひのちの、ほうばが、ひ、ひ、ひっぷんほりん」と言う。
一瞬、「細かすぎて伝わらないモノマネ」の「サ行がうまく言えない人」を思い出した。
すまんです。


『傾城反魂香』で雅楽之介(うたのすけ)という若者が登場する。
刀を手にして山科の閑居へ走り込んでくる。
姫君の誘拐騒動を土佐将監に知らせすぐに騒動の現場へ戻る。
急いで戻る時、刀を落としてしまう。
あれ、これって…こういう芝居なのかな?と一瞬思う。
雅楽之介は刀を落としたまま走り去ってしまう。
あれぇ? いいのかな。
道具を扱うのは左遣いの人だ。
幕間にヒロが、落とした左の人焦ってはったよ、と言う。
確かに腰をかがめて拾う訳にはいかない。
左手がダラリと下がってしまう。
あれはハプニングだったんだ。


『染模様妹背門松』(そめもよういもせのかどまつ)
お染と久松の心中物だが、正月だからだろうか雪の逃避行で物語は終わる。
「油屋の段」はドタバタ喜劇。
文楽でこんなに笑ったのは初めて。
落語を聞いているよう。
なかでも小悪党の番頭 善六がサイコーでした。


善六はワル仲間の源右衛門との絡みでアドリブを連発する。
文楽の語りにもアドリブありなんですね。
「ととのいました」という流行語あり。
借金の手形の色紙をとるべきところ、手には会場で売っている筋書き(プログラム)、
「うむ、なになに? 演目は寿式三番叟じゃと?」
「アホ、それは国立文楽劇場の筋書きじゃ」
こんなモノボケもあり。
笑ったのは善六が正義漢の清兵衛にぶたれる場面。
ボコボコに殴られる善六が「わしゃ成田屋海老蔵かい!」とボケる。
ゴシップネタ?
文楽でこんなのありなんだ。
(さすがに字幕にはなかっただろうけど)


11月に中村座で見た『法界坊』にも坊主と番頭、ワルの2人組が登場した。
勘三郎はアドリブを連発し客席をいじった。
あれに似た趣。


この段の切りを語る豊竹咲大夫さん、美声が響き素晴らしかった。
若手のホープ咲甫大夫とともに贔屓にさせてもらいます。
人形遣いでは善六をやった桐竹勘十郎、お染をやった豊松清十郎がいい。
勘十郎と清十郎にこれからも注目。


人生2度目の文楽、楽しめました。
文楽にユーモアあり。
前回は気づかないが大衆の芸能として涙と笑いは不可欠ですからね。


前から4列目は人形見るにはいい。
でも、大夫、三味線、字幕と総合的に楽しむには10列目がいいかも。
10列目は足ものばせる。
狙いは右ブロックの10列目25番あたりか。
http://sakiho.com/Japanese/bunraku/seat/kbunraku.html


正直に告白しよう。
文楽は面白い。
にもかかわらずちょっと寝た。
寝てもなお面白い、また見ようと思った。
三浦しをんも『あやつられ文楽観賞』に書いている。


 「観劇中に寝てしまったらどうするか」だが…。
 ずばり言おう。寝てしまったら寝りゃあいいのだ。
 私もたまに客席で、ガックンガックン舟を漕いでいる。


ヒロも寝ていた。
人間国宝が語り、もう一人の人間国宝が人形を操っている時に、だ。
周りのおばさん方もかなりの率で寝ていた。
でも、三浦しをんも書いているようにいい語りは聞き所では起きるようになっているのだ。
皆さんも寝ることを恐れずに見ましょう。


…幕が下りたのは8時過ぎ。
ヒロと『よしむら』へ行く。
なじみの酒場に嫁さん初披露です。
先付けは白菜と豚肉に煮びたしとほうれん草おひたしの胡麻味噌がけ。
蒸し穴子の炙り、焼き鰆、豆腐の唐揚げ、どれもこれも美味でした。