2012/4/6 こんばんわ お月さん

ゴルフ中継の仕事で兵庫県三田に泊まる。
「みた」ではなくて「さんだ」。
読み方ひとつで田舎くさくなる。
雅が雛に。
大阪と神戸のベッドタウンでアメリカ郊外にあるようなショッピングモールばかりが目立つ。
JRの三田駅周辺にある旧市街は21世紀の繁栄から取り残されたようにぽつんとひなびている。
中継スタッフの飲み会は10年ほど前からパスさせてもらっている。
昨日は3時間睡眠で疲れているので風呂に入って早寝しよう。
今日は飲まないと決めた。
ストイックな中にもささやかな楽しみを見つけること。
ポンコツを使いこなすだましだましのタクティクス。
路地裏に小さな渋い銭湯を見つけた。


   


男湯の客は僕一人だった。
脱衣場でおっちゃんが立ったままサンテレビ阪神戦を見ていたが風呂屋の家族だった。
サウナもジェットバスも電気風呂もなし。
ひょうたん型の風呂だけ。
サウンド・オブ・サイレンス。
静けさがある。
山奥の湯治場のようだ。
ときおり女湯から老婆らしき二人の会話が聞こえてくる。
銭湯を独り占め。
ぜいたくな時間。


   


リニューアルする気はもうない。
昭和の時代を生き抜いた。
長生きしすぎて見なくてもいいものを見てしまった。
もう十分だ。
わたしはこのまま死ぬのを待っている。
そんな銭湯だった。


   


風呂上がりに近所を歩く。
街が古い。
道が曲がっている。
諦めと哀しさが街にこびりついている。
町並みは保護されている様子もなく、どちらかというと見捨てられているようだ。
弱肉強食のグローバル市場経済の現世、老いた草食動物を見るかのよう。
捕食する側もあえて襲わず、死にゆくのを待っている。


空に満月。


   


加川良の歌が口をつく。


   こんばんはお月さん そんなつもりじゃなかったんだ
   夜風が身に染みる でもつきあってくれるね
   こんばんはお月さん そんな筈じゃなかったんだ
   でもつきあってくれるね 明日の朝まで


   風呂屋の煙突いやに長く これじゃ一日長すぎる
   思い出すことさえつらいよ 夢をみようにも眠れない
   あの坂道を登った所 一番星が見つけられる
   うまくやれると思ってた 夜道がもっともっと暗けりゃ
   きっと煙草の吸いすぎなんだ 嘘をついてたわけじゃない
   恥ずかしがりやなんだね 知らないままでいたかった

               (加川良「こんばんわ お月さん」)


そんなつもりじゃなかったんだ。
そんははずじゃなかったんだ。
思い出すことさえツライよ。
うまくやれると思ってた。
嘘をついてたわけじゃない。
知らないままでいたかった。


後悔を肴に3合は飲める。



風呂屋の煙突、いやに長く。


   


取り残されたような時計屋がある。
デュズニーの目覚まし時計が時を刻む。
薬屋、お好み焼き屋、ボクシングジム。
「永らくのご愛顧を感謝します」
小さな書店が死んでいた。