2012/2/27 ハンナの人生を思う

今日から月末までニュースデスク3連投。
作業量の少ない業務を一日かけてこなし僕は糊口を凌いでいる。
この調子ではいかに後退戦とはいえ白旗を揚げるのを早めるだけだと思うのだが。
まったくやる気が起きないのは困ったもの。
でも、覚悟の怠惰だ。


…レンタルで借りていたDVDをようやく見終わる。
『愛を読む人(原題 The Reader )』、2008年の映画だ。
主演女優のケイト・ウィンスレットがオスカーを獲った。


映画はベルンハルト・シュリンクの原作『朗読者』を忠実にトレースしていた。
(青年がアウシュビッツヒッチハイクするシーンなどはカットされていたが)
ただ、舞台はドイツなのに話す言葉は英語という不思議と居直った作り。
登場人物の名前もミヒャエル・ベルクがマイケル・バーグとなっていた。
作品としてはよく出来ていたと思う。
主人公のマイケルに感情移入して心をふりまわされながら観ることが出来た。


マイケル目線の描き方なので当然のことなのかもしれないが、
観る者はハンナという女性の人生を見つめ考えることになる。
見つめ続けた末に答えのない澱のようなものを抱え込む。
裁判で被告のハンナを厳しく判事が激しく糾弾する。
「どうしてあんな酷いことが出来たのですか?」
彼女が放つ言葉は僕らに向けられているかのようだ。
「あなたなら、どうしましたか?」
誰も答えられない問いかけだった。
そして思う。
彼女が自らの秘密を命をかけてでも守りたかったのはなぜか。
マイケルは知っていた。
それを白日に曝せば彼女を助けられるはずだった。
彼が迷いながらもそうしなかったのはなぜか。
すべては語られないまま運命は決する。


登場人物の大学教授が言う。
法というものが人を支配するのが世界だ。
人を殺すのが悪いことだとわかっている。
善悪を最終的に決め裁くのは人の感情ではなく法である。
平和であろうが戦争中であろうが、そのときの法律が殺人という行為の是非を裁く。


      


(以下、ネタバレになります)
可哀想なハンナ。
彼女の人生でいちばん幸せだったのはいつだったのか、と考える。
無期懲役で収監された刑務所に『オデッセイ』の朗読を録音したカセットテープが届く。
その声の主がマイケルだと気づいた時だろうか。
あるいは、文盲だった彼女が言葉を覚えようと手探りで勉強を始めた時だろうか。
チェーホフの小説をテキストにハンナは誰の助けを借りず読み書きを学んでゆく。
あの刑務所での一連のシーンは映画の中でもっとも感動的だ。
そして、マイケルに何十年ぶりに会った直後、ハンナは刑務所で自ら命を絶つ。
彼女は何を望んでいたのだろう。
答えの出ない問いなのかもしれない。


原作の最後の章を読み直した。


  いずれにせよ、物語についてぼくが考えるのは以上のようなことだ。
  傷ついているとき、かつての傷心の思い出が再びよみがえってくることがある。
  自責の念にかられるときにはかつての罪悪感が、
  あこがれやなつかしさに浸るときにはかつての憧憬や郷愁が。
  ぼくたちの人生は何層にも重なっていて、以前経験したことが成し終えられ片がついたものとしてではなく、
  現在進行中の生き生きとしたものとして後の体験の中に見いだされることもある。
  ぼくにはそのことが十分理解できる。
  にもかかわらず、ときにはそれが耐え難く思えるのだ。
  ぼくはやっぱり、自由になるために物語を書いたのかもしれない。
  自由には決して手が届かないとしても。
                            (シュリンク「朗読者」松永美穂 訳 より)


朗読者 (新潮文庫)

朗読者 (新潮文庫)


訳者あとがきによると最初この映画は「イングリッシュ・ペイシェント」のミンゲラが監督するはずだった。
実際にはスティーブン・ダルドリーがメガホンをとっている。(ミンゲラは製作)
公開中の『ものすごくうるさくてありえないほど近い』の監督だ。
ドイツ国内では映画化されていないのだろうか。
ケイト・ウィンスレットもいかつい体格でドイツ女性を演じていて悪くはないがドイツ人キャストで観たい。


ちなみにDVDは完全無修正版だった。
坊や(マイケル)のモノがちらりと写っていただけだった。
僕が何かを期待していたわけではありませんが。



…帰宅したら食卓にいかなごの釘煮が待っていた。
いかなご漁が始まり初物を1キロ買ってきたのだという。
そういえばローカルニュースで流れていた。
今回のはヒロの自信作だ。
色といい形といい見た目がいい。
飴色の豊穣。
平清盛が暴れた瀬戸内の海のおくりもの。
去年も同じ時期に炊いたのだが団子状になってしまった。
落としぶたの重さが原因だったという。
今年は紙で蓋をしたのだとか。
初物でまだ高くて小さいけどこれがいい。


きょうは呑むつもりはなかった。
金亀純米を小さなグラスに一杯だけ。
旨い!
春の瀬戸内が口にひろがる。
じゃ、もう一杯だけ。